ガンダムAGEの7話、8話を作り直す 上フリットとエミリー、デシルの3人は、ザラムの首領ドン・ボヤージの屋敷に連行された。 屋敷の外観は、古いヨーロッパ地方の建物をモチーフにしたような壮麗なものだった。門をくぐると、美しく整えられた大きな庭園が広がっていた。 時刻は夕方。フリットたちは屋敷の個室で、それぞれに取り調べを受けた。 フリットの取り調べは、真夜中に終わった。個室で休んでいると、スーツを着たザラム兵がおそい夕食を運んできた。 食事をしていると、エミリーとデシルが部屋に入ってきた。時刻は夜の11時をすぎていた。ふたりは、ずっと前に取り調べが終わって、フリットを待っていたという。 3人は明日のことやUEのこと、デシルは家に帰らなくていいのかなどと話をした。 深夜、エミリーとデシルは部屋にもどった。フリットは、ひとりベッドに横たわった。が、部屋の照明を消す気持ちにはなれなかった。 休もうとして目を閉じても、UEのことが頭からはなれなかった。 《こんなことをしている場合じゃないのに……》 すぐにでも再び襲撃があるかもしれない。ガンダムの修理もしなくてはいけない。イワークやリリアは、無事にもどれたのだろうか。 昼間の疲れが出たのか、いつの間にかフリットは寝入っていた。気づいて飛び起きると、朝の6時をまわっていた。 しばらくすると、ザラム兵が部屋にやってきた。ザラム兵は、「朝食は大食堂でとるように」といった。さらに、首領のドン・ボヤージが直接、ききたいことがあるらしく、あとで執務室に案内するといった。 フリットたちは、男の案内で食堂に入った。人は多いが、広々としていた。 ここまで案内してくれた男と一緒に食事をとった。 男は、ロンドと名乗った。ロンドはMSパイロットで、街での戦闘中、乗っていたMSの足元にいたフリットたちを見たという。 「あのとき、つぶさないでよかった」と冗談まじりにいった。 言っていることはきついが、素朴で人なつっこい笑顔はフリットたちをなごませた。 * * * フリットとエミリー、デシルの3人は、ドンの執務室に案内された。 ドンは忙しいため、仕事をしながら部屋でおそい朝食をとるのが常であるという。 部屋に入って、フリットはおどろいた。 「グルーデックさん!」 ドンの大きな書斎机のまえには来客用ソファーが2つ、向かい合わせに置かれていた。机と向かい合うほうのソファーには、グルーデックが座っていた。 「来たか、フリット。ドン・ボヤージには、私からも事情を説明していたところだ」グルーデックはいった。 ドンの書斎机には、いくつもの皿がならべてあった。それぞれに豪華な料理がのっていた。横には執事風の男がひかえていた。 ドンは、フリットを見るといった。「なんだ、3人で来たのか。パイロットの小僧だけでよかったんだがな……。まあ、いい。そこに座れ」 ドンにうながされるまま、フリットたちはソファーにすわった。フリットはグルーデックのとなりに。エミリーとデシルは、ドンに背を向けるソファーに腰かけた。 ドンは、朝食のステーキの肉片にフォークをさした。見たこともないほど分厚い肉だった。それを口に入れると、ほおばりながらいった。 「フリットといったな。街でMSを乗りまわした件は、コロニーにUEが侵入したことをかんがみて不問にしてやる。今日は、お前に2、3ききたいことがある。それに答えたら釈放してやろう」 「はい」フリットはこたえた。「答えるかわりに、僕からも質問があります」 「……フッ。生意気なガキだ」ドンは、口の中の肉をワインといっしょに飲み込んだ。「立場がわかっていないようだが……。まあいい」分かりやすく不機嫌そうな顔をつくるといった。 「あの白いMS――ガンダムといったな。あれをお前がつくったのか?」 「いいえ。僕も開発にはたずさわりましたが、システムの一部だけです。主な開発は、コロニー“ノーラ”のアリンストン基地の技術局が行いました。僕がつくったと言われているのは、ガンダムの設計図が、僕の家――アスノ家に代々伝わるものだからでしょう。その設計図も今の技術にあわせ、かなり改変されています」 「アスノ家か――。歴史のある技術者の家系だとは聞いたが……。では、あのガンダムの設計図は、『銀の杯条約』をくぐり抜けて残されたのか?」 『銀の杯条約』とは、約100年前、恒久平和を実現するため、戦闘用MS等の軍事技術を、政府が自主的に撤廃した条約のことだ。 「はい。ガンダムの設計図は、個人所有・個人開発ということで条約の範囲外だったといいます。僕も詳しいことはわかりませんが……」 ドンは話を聞きながら、机のうえの食事をあらかた片づけていた。豪勢なつくりの革張りの椅子に深く腰をかけなおすと、懐から葉巻を取り出した。火をつけて、吸い始めた。 フリットは目をみはった。図鑑で読んで知ってはいたが、実物の葉巻を見るのは初めてだった。コロニーの住民は空気が汚れることをきらい、タバコ類を吸うものはめったにいない。値段も、おどろくほど高かった。 「あれだけのMSが個人所有か……。にわかには信じられんが……」ドンは煙を吐きながらいった。「まあ、いい。聞きたいことは、まだある」 火のついた葉巻を片手に、机のうえに身を乗り出した。 「UEのことだ」 * * * 「UEの正体は、なんだ? さきほどもグルーデック・エイノア艦長から話をきいていたところだ。何度も戦ったことのあるお前なら、わかることもあるだろう」ドンはたずねた。 「詳しくはわかりません。……が、おそらく、人間です」フリットはこたえた。「戦っているときに1度だけ、接触回線で声をききました。僕と同じぐらいの子供の声でした」 「ほう……。UEの正体は宇宙人なんていう馬鹿げた意見もあったが……。やはりな」ドンは、背もたれに体をあずけた。「ここ数年ほど前からだ。俺たちの周りの見えないところで、なにかが動いている、いやな感じがしてならなかった。それが人間の作為であるなら納得できる」 「おそらく、連邦政府の上層の一部は、UEとなんらかのつながりがある」グルーデックが驚くべきことをいった。 「ほ、本当ですかっ!? グルーデックさん!」フリットは声を上げた。 「確証はない。――が、そうとしか考えられないことが数多くある。UEによるテロ行為は犯行声明もなく、目的も不明だ。が、その出現パターンから、地球圏の特定の宙域に本拠地らしきものがあることは簡単に割り出せる。連邦も、それはわかっているはずだ。なのに、連邦軍はUEの拠点を攻撃しようとはしない。対抗できる兵器をたないという理由は成り立つが……」 「ふん! 連邦なんぞに何ができる!」ドンは、拳を机に叩きつけた。「あいつらは宇宙に住む民のことなど考えちゃあいない。自分たちの保身がすべてだ! 連邦がUEとつながっているか。さもありなんだ!」 「……だからこそ、宇宙の民の力を合わせて、UEを叩かねばならんのだ」グルーデックは、ドンを見すえた。表情からは、固い決心が見てとれた。「ドン・ボヤージ! UEを倒し、宇宙に平和を取り戻すため、私に力を貸してくれ!」 ――執務室に静寂が満ちた。時計の秒針が、ゆっくりと音を立てた。 「……フッ。フハハハッ!」ドンは低い声でわらった。「このワシにも、反乱の片棒を担げというのか? 反逆者のグルーデックさんよ」 「……情報が、はやいようだな」グルーデックは静かに答えた。 「地球に比べりゃ、せまいコロニーだ。肩寄せ合って生きてれば、どこにでも“協力者”はできる」 「……?」フリットには、ふたりの言っていることがわからなかった。 「小僧は知らんようだな。このグルーデック・エイノアは、本来のディーヴァ艦長だったディアン・フォンロイド大佐を殺した罪で、連邦から疑いをかけられている」 「なにを言って……」 「元艦長を殺して、まんまと新造戦艦を奪取したってわけだ。そこまでしてUEを叩こうとは見上げた野郎だ。お前の戦う動機は、おそらく、復讐――だな?」 グルーデックは微動だにせず、ドンを見すえた。 「なにを言ってるんですか!」フリットは立ち上がった。「グルーデック艦長はブルーザー司令のあとを継いで、ディーヴァの艦長をしてくれているんです! 何の証拠があって反逆だなんて……」 「フリット……」不意に、エミリーがフリットのジャケットのすそを引いた。フリットはおどろいて、エミリーを見た。 「私の動機が復讐といったな」グルーデックはいった。「ここに、UEの拠点を攻撃する作戦の計画書がある。これは亡くなったブルーザー基地司令とともにつくられたものだ。私は、決して私怨だけで動いているのではない」懐から分厚く閉じられた紙の束を取り出すと、ドンの机のうえに置いた。 「フッ。なら、そのブルーザーってのも反逆の共謀者ってわけだ」ドンはいった。 「ブルーザー司令の悪口を言うな!」フリットは怒鳴った。 「フリット――」グルーデックは腕をのばして、フリットを制した。 ドンは、計画書の束をめくりながらいった。 「たしかに、計画はよく練られている。ブルーザーが切れものだいう話は聞いたことがある。……人望もあったようだな」フリットを横目で見た。「――で、このとおりにやれば、必ず勝てると言えるのか?」 「あとは、戦術・技術レベルの課題をクリアするだけだ」グルーデックはこたえた。 「ふん。それができれば苦労はしねえ。昨日の戦いで小僧のガンダムは、UEを2機もたおしたが、ザラムとエウバのMSでは歯も立たなかった」 「UEの脅威は、すぐそこまで迫っているのだ。このファーデーンだって、今日明日には、どうなっているかわからない。今は、せまいコロニーのなかで争いあっている場合ではない。手を貸してくれ! ドン・ボヤージ!」 「……理想論だな。現実を知らない」 「このままでは、このコロニーも、エンジェルやノーラのようになってしまうかもしれないんだぞ!」 ドンは、紙の束を机のうえに放り出した。「……俺の話はここまでだ」 「ドン!」グルーデックは、なおも食い下がった。 ドンは、それを無視するとフリットに向きなおっていった。「小僧、俺にききたいことがあると言ったな。なんだ?」 「……教えてもらいたいことがあります。ザラムとエウバは同じコロニーのなかで、なぜ争い合っているのですか。それに対して連邦政府は、なにもしようとはしないのですか?」フリットはたずねた。 * * * 「いいだろう、教えてやる。教科書には載ってないだろうからな」 ドンは、革張りの椅子に腰をかけなおすといった。 「ザラムとエウバの因縁については、『銀の杯条約』以前の『コロニー国家間戦争』にまでさかのぼる。ずいぶん古い話だ。まあ、それについてはいいだろう。お前が聞きたがっているような正確で中立な情報は、戦時の混乱のせいで残されていない。問題は、今から144年前、かりそめの平和が訪れた後のことだ」 ドンは深く息を吐き出すと続けた。 「ザラムとエウバは“停戦”をし、ともにファーデーンに入植した。これで平和が訪れると期待したものも多かっただろう。――が、世の中はうまくできているもんだ。連邦政府はコロニー内の領域を二つに分け、それぞれを両勢力に管轄させた。しかし、一部――と、いっても広大な土地だが――の境界が未確定なままだった。どうしてか、わかるか?」 「……わかりません」フリットはこたえた。 「連邦政府は、あえて境界を確定しないことで、ザラムとエウバの争いを煽っていやがるのさ。どちらの勢力にも、これ以上、大きな力を持たせないためだ」 「連邦政府が、そんなことを……」 「それだけじゃねえ。十年以上まえから地球圏に広まっているという『地球守護教』なんていう怪しげな宗教団体が、ここ最近、裏の顔をとおして軍事兵器の取引を持ちかけてきやがる。戦闘用MSさえもだ。やつらは連邦の上層にシンパがいるらしく、条約を無視して、やりたい放題だ。ザラムもエウバも互いをけん制するため、取り引きには応じざるを得ないってわけだ」 「地球守護教――別名『エデンへの道』か」グルーデックがいった。「地球とその生活への過度な絶対視が特徴。ひいては、宇宙に住む人間を蔑視するという差別主義的な思想にまで発展している。地球に住む政府高官に信奉者が多いというが……。やつらは裏で、そんなことまでしていたのか」 「さすが、元情報将校さんだ」ドンがいった。「わかったか、小僧。コロニーのなかでドンパチしている俺たちなんざ、やつらの手のひらで遊ばれるかわいい人形のようなもんさ。本当の“悪”ってのは、もっとデカくて、見えないところにある――自分の影みたいなもんだ。お前の影のなかにだって、“悪”はあるのかもしれないんだぜ」口の端をゆがめた。 「……なら、どうして、その“悪”と戦おうとしないのですか」フリットはいった。 「……フッ。面白い小僧だ。自分の影と戦えというのか。だが、少年は、それぐらいでないといかん。俺も、あと30年、若ければ、お前と同じことを考えただろう」 「それは、僕の問いの答えになっていません」 ドンは、真っすぐにフリットを見すえた。 「……そのとおりだ。俺たち大人は、子供に言ってやれるような立派な答えを持ってなんかいやしない。ただ、その日暮らし。今日を生きるので精一杯。それが、大人の正体ってもんだ」 「……」 執務室のなかに静寂が満ちた。 * * * 突然、執務室のドアが乱暴に開かれた。 「ドン! お知らせすることがっ……」スーツを着た太ったザラム兵が、血相を変えて入ってきた。 「なんだ!?」ドンはいった。 「よ、よろしいので?」ザラム兵は、チラとフリットたちを見た。 「かまわん! 言え!」 「報告します! エウバのやつらが大挙して、ニューイーターの牧草地帯に攻め込んで来ました! MSが約30体。エウバが所持しているとみられる全ての機体を出してきたようです。牧草地の丘に陣取って、決戦がどうとか、わめいてやがります!」 「ちっ、きたか」 《決戦とはな》ドンは思った。《若いくせに考えかたの古いエウバ当主ラクト・エルファメルのやりそうなことだ》 UEが現れたことから急いで因縁の戦いにケリをつけようというのだろう。市街地ではなくドンの所持する牧草地を戦場に選んだあたり、サルより知恵はあるらしい。 「よし! こちらからも討って出る! 全軍に伝えろ! 使えるMSは全て動かせ!」 「あの白いMSは、よろしいので?」ザラム兵は、まどの外にみえるガンダムを指していった。 「そんなものは放っておけ! 俺もMS“ガラ”で出る!」 「イ、イエス! ドン!」ザラム兵は、足をもつれさせながら廊下を走っていった。 「お聞きのとおりだ」ドンはフリットたちに向きなおった。「今は、UEよりも優先せねばならん敵がいるようでな」 「どうしても、ともに戦うわけにはいかないのか……」グルーデックがいった。 「144年も争ってきた相手と、いきなり手を取り合えというのが無理な話だ。どちらにしろ、この戦いでケリをつけることになる。あとは、勝ったほうが中心となって統一政府をつくり、UEに対抗することになるだろう」ドンは、フリットを見た。「……言ったろう、小僧。大人はその日暮らしだってな」自嘲するように笑った。 「ボヤージさん。あと少しだけ聞いてもらいたいことがあります」フリットはいった。 「俺は忙しいと言ったろう! それに、お前の立場は……」 フリットは、ドンをさえぎるようにいった。「イワークさんのことです。ザラムとエウバが戦っているときに、イワークさんの乗った作業用MSが乱入しましたが、あれはMSの足元にいた子供を助けようとしただけです。他意はありません」 「……その件はきいている。こちらも過剰な対応をしたというな。中古の作業用MSぐらい補償してやる」 「ありがとうございます。あと、ひとつ――」 「まだあるのか!?」 「イワークさんの奥さんが、病気で苦しんでいます。地下に住む人たちの健康状態をしらべて、必要なら薬を分けてください。あと、生活環境の改善もお願いします」 「……ふん! 薬ぐらいで反乱を起こされたら、たまらんからな。考えておいてやる」 「ありがとうございます!」フリットはお辞儀をした。 「さあ! 交渉ゴッコは終わりだ! あとは勝手にしなっ!」 ドンは椅子から立ち上がると、フリットたちに見えないよう机の引き出しから一枚の写真をとり出した。上着のポケットにしのばせた。はや歩きで部屋を出て行った。 フリットたちは、ドンの後姿を見送った。 * * * ドンは廊下を歩きながら、上着のポケットから一枚の写真をとり出した。立ち止まって写真を見た。 うまれたばかりの赤ん坊が写っていた。牛のような白と黒のぶち模様をしたベビー服を着せらて眠っている。ドンの息子だった。 ベビー服は、まだ若かった妻のセシリアが出産のずっと前から選んでいたものだった。地球にいる、めずらしい白黒のクマを模したものだという。セシリアは、この服をしきりに「かわいらしい」と絶賛した。 息子の名前はセシルという。これも妻が決めた。女のような名前でバカにされやしないかと、ドンは反対した。しかし、生まれて7日で死んでしまった。ほんの数分、目を離したら息を止めていたのだ。 生きていれば、あのフリットとかいう子供より1~2歳、年上だろうか。 思い出したくもない苦しい記憶だった。やっと、最近になってからだ。一瞬でも幸せを教えてくれた息子に、感謝できるようになったのは。 ドンは、写真を見つめた。 葬儀に出た聖職者は、「セシルの命は地球の引力にひかれ、またすぐ地球圏に生まれてくる」と、ドンたちを励ましてくれた。にわかには信じられなかった。 しかし、それを真に受けたのか、それから妻のセシリアは、たびたび「地球に行ってみたい」とせがむようになった。地球の動物園で、ベビー服のもとになった白黒のクマを見たいというのだ。 地球に行くには何重もの審査をくぐり抜け、政府の許可を得る必要がある。ドンにとっては不愉快なことだった。とはいえ、ドンほどの立場にあるものなら、まちがいなく渡航は許される。しかし、あまりに仕事が忙しいため、ついに、その時間は取れなかった。 セシリアには申し訳ないと思っていた。ドンもまた、特別な理由はないが、発作のように地球へ行きたくなるときがあった。 聖職者の言葉を信じたわけではない。が、ベビー服のもとになったクマを地球の動物園まで見にいけば、なにかの偶然で、同じような服をきた赤ん坊が、若い両親に抱かれて笑っている姿を見ることもあるかもしれない――と、思うときがあった。何の根拠もない、ただの思い込みだ。 ドンは、写真を胸のポケットに入れた。 何世代にもわたって続けられた抗争に、今、決着がつこうとしている。今日は、ファーデーンの政治が大きく変わる節目になるだろう。 ドンは足早に、MS格納庫へと向かった。 * * * フリットたちは、ドンの執務室に残された。 「グルーデックさん」フリットはきいた。「ボヤージさんが言っていた、復讐というのは……」 「……今から14年前のことだ」 グルーデックは、ゆっくりと口を開いた。 「私が、まだ情報士官だったころ、住んでいたコロニー“エンジェル”がUEに襲撃され、妻と娘が死んだ。私は、たまたま仕事で別のコロニーにいたため、ひとり助かった……」 記録として残るUEによる最初のコロニー襲撃事件――“天使の落日”。フリットが生まれた年に起きた事件だった。 「UEに、復讐したいという気持ちがないと言えばウソになる。が、この作戦はブルーザー司令の遺言でもある。なんとしても成し遂げなければならない。たとえ、反逆者の汚名を着せられてもだ……!」 グルーデックは、思いつめたような顔でいった。 「フリット、私に力を貸してくれるか? この作戦には、お前とガンダムの力が必要なのだ。まだ子供のお前を巻き込むことになったのは、すまないと思っている……」 「僕は、UEと戦うと決めました」フリットは、グルーデックを見すえた。 「本来なら、ディーヴァのクルーにも相談した上でことを進めるべきだった。いろいろあって話が前後してしまったな。皆にも、あやまらなければいけない」 「連邦政府の一部がUEとつながっているというのは、本当なんですか……?」エミリーがきいた。 「おそらくな。まだ、決定的な証拠はない。が、今日、ボヤージから『エデンへの道』が、コロニーの自治勢力に戦闘用MSの売買を持ちかけていると聞いて、ほぼ間違いないと確信した」 「僕たちは、これからどうしたらいいでしょう?」フリットはたずねた。 「われわれは、UEにそなえねばならん。今は、ガンダムをディーヴァに回収することだ」 「はい!」 「ねえ、フリット」エミリーがいった。「デシルが帰ってこないの。ずっと前に、トイレに行くって出てったきり……」 「え? いつの間にいなくなったんだ」フリットはあたりを見回した。デシルが見当たらない。 「あの少年から、これ以上の情報が流出するのを防がねばならんな」グルーデックはいった。「しかし、今はガンダムの修理を急ごう」 「はい! ガンダムを出します!」 フリットは上着の裏ポケットから、AGEデバイスを取り出そうとした――が、なかった。上着の左右のポケットも探したが、ない。ついには、上着を脱いで探してみたが、見つからなかった。 「AGEデバイスが――ない!」フリットは白い顔でいった。 「部屋に置き忘れたんじゃない?」エミリーがいった。 「さ、さがしてきます!」フリットは駆けだした。 ――と、そのとき、部屋の窓から白いMSの歩く姿が見えた。 「ええぇっ!?」 ガンダムだった。 * * * 「フリット! ガンダムをしばらく借りるよ!」ガンダムから声がした。デシルだ。 「デシル!」フリットは、窓から落ちそうなほど身を乗り出して叫んだ。「なにをしているか、わかっているのか!? はやく降りるんだ!」 「フリットは、あんなことを言われて悔しくなかったの!?」デシルのガンダムがいった。「あたまの固い国家主義者どもに、このボクが正義の鉄槌をくだしてやるよっ!」 「やめてくれ! 遊びじゃないんだぞっ!」 デシルのガンダムは、フリットの叫びを無視した。すでに遠くに見えるドンのMS部隊を追いかけていった。 「フリット……」グルーデックが、見たことのない渋い表情でいった。 「す、すいません……。デシルにAGEデバイスを……」 「いつの間に盗られたのかしら……」エミリーがいった。 「とにかく、ガンダムを追うぞ。なんとしても取り返さねばならん」 「は、はい!」 フリットたちは、走って部屋を出た。 * * * デシルは、ガンダムのコックピットにいた。 「クククッ……。アハハハッ!」 楽しくて仕方ない。 コックピットまわりの作りは、デシルのMSゼダスより古いようだ。しかし、よく動く。かなりの安定性だ。相変わらず、大した武器は持っていないようだが。 「……ん? なんだ、これ」 タッチパネルに一覧のようなものが、ずらりと並んでいた。項目は100を超える。この中から、何かを選べというのか。 デシルは、迷わず一番上のボタンを押した。こういうときは、システムがもっともすすめる項目を選べばいいと相場が決まっている。それは、たいてい、一番上に表示されるものだ。 《生成中……》ディスプレイに映った。 意味がわからない。 「まあ、いいかっ! アハッ!」 今は、それどころではない。楽しい遊びのはじまりだ。わざわざ、このコロニーにまで来たかいがあったというものだ。 * * * ドンの駆るMS“ガラ”は、決戦場となる牧草地についた。 大きな生き物のコブのような、みどりの丘が、いくえにも連なっていた。自慢の牧場がある、広大な牧草地だ。 すでにザラム・エウバの両軍のMSが布陣していた。ザラムのMS“ジラ”が40体。エウバのMS“ゼノ”が30体。丘に囲まれた盆地を前に対峙していた。 エウバの頭首ラクト・エルファメルは、ドンが来るまで戦端を開かずに待っていたようだ。ラクトらしい、けれんみのあるやり方だ。しかし、これが最後の戦いだと思えば、イヤミに感じることもなかった。 コロニーにUEの襲撃があったという情報は、エウバにも伝わっているはずだ。 UE――犯行声明のないテロリスト。「正体不明の敵」。連邦軍を圧倒する兵器で散発的に地球圏の艦船を狙い、数年に一度の割合でコロニーを襲撃した。コロニー“ノーラ”を廃棄に追い込んだ。そのたった2週間後、このコロニー“ファーデーン”にまであらわれた。 《やはり、あの少年の言うとおり、そんな場合ではないのかもしれないな……》ドンは思った。 しかし、何世代にもわたった戦いに、今日一日で決着をつけようというのだ。これでも、かなり譲歩したつもりだった。若いくせに頭の固いエウバ頭首のラクトが、なにを考えて決戦を挑んだのかはわからない。しかし、渡りに船だった。 「勇敢なるエウバの戦士たちよ!」 紫色をしたラクト専用のMS――“エルメダ”が、自軍のMSに呼びかけた。 「ゆえあって、宿敵ザラムとの決着のときが迫った。しかし、驚くことはない。エウバの勝利がほんの少しだけ、はやまっただけのことだからだ!」 ラクトは演説の名手だ――と、本人は思っているらしい。しかし、ラクトの古めかしい言い回しをきくだけで、ドンはイラついて仕方がなかった。 ラクトは続けた。 「決戦の場を、ここニューイーターの地に選んだのはほかでもない。本来であればこの地こそ、我らが始祖の治めるべきだった『約束の地』であるからだ!」 ――ウオオォッ! エウバのMSから、一斉に雄叫びがあがった。 「144年前、平和を心から渇望し、その期待を連邦とザラムに裏切られた始祖の無念……。いま一度、思い返すのだ!」 ――ウッ……、ウゥッ……。 なんと。泣き声を発するMSまでいるではないか。 「戦え! エウバの戦士たち! 今こそ一族の恨みをはらし、このコロニーに、真の平和をもたらすのだ!」 演説は最高潮だ。コックピットでラクトは涙をながしていることだろう。 「勇敢なるエウバの戦士に、女神“ラクシス”のご加護があらんことを!」 ――ウオオオォォッ! 大きな鬨の声がしめくくった。 “ラクシス”とは、エウバの支配層が信仰する女神だ。平和と慈悲の象徴であるという。この女神はふたつの顔をもち、もう一方の名を“フレイア”といった。こちらは混沌と破壊をもたらす女神であるという。エウバのやつら同様、よくわからない神だった。どうやら、今はフレイアのほうらしい。 「なにが『約束の地』だ! この青二才!」ドンのMSガラは、外部スピーカーでいった。「人の土地に、汚ねえ足ではいるんじゃねえ!」 「おのれ! ドン・ボヤージ!」ラクトはいった。「今日こそ始祖の恨み、その身で思い知るがいい!」エルメダは、ドンを指した。 「指をさすんじゃねえっ! いつからここが、お前らの土地になった! てめえらが難癖をつけるから、これだけの土地を開発もせず、牧草地として管理してやっているんだろうが!」 「かっ、管理っ!? 管理だと!?」ラクトは裏声を発した。「ええい、だまれ! 盗人猛々しいとは、このことだ! 終戦のドサクサにまぎれ、人の土地を奪いとった悪党どもが! ……よく見れば、そのヒゲも盗人か山賊のようではないか!」 ――クッ……。ククッ……。 エウバのMSから笑い声がもれた。 「てっ、てめえっ……! 俺のヒゲのことを笑って生きて帰ったものはいねえっ……! てめえの命日がきまったようだな!」 「問答無用だ! 今日こそ決着をつけてやる! 貴様のような古い人間の時代は終わったのだ!」 「うるせえっ! あたまの固い青二才に、なにができる! はなから、てめえと話すことなどなかったぜ!」 「ゆけっ! 名誉を重んじるエウバの戦士たちよ!」ラクトの指示で、エウバのMSがつき進んだ。 「野郎ども! ザラムの誇りを見せてやれ!」ドンの号令でザラムのMSが迎え撃った。 ザラム・エウバの全MSが、草原の丘を駆け下った。 両軍がぶつかった。 地響きのなか、それぞれの前衛が近接武器を交えた。ジラが鉄をも焼ききる灼熱の手斧“ヒートホーク”を振るえば、ゼノが大剣“ヒートブレード”を打ち返した。その後ろからはマシンガンをかまえたジラの部隊が、鋼鉄の弾丸をばらまく。さらに後方から巨大なライフルをかまえたゼノが、うかつな敵を撃ち抜いた。 エウバの兵士は強い。その能力は、実戦経験のない連邦軍はもとより、経験の豊富なザラムの兵士をも上回った。しかし、遮蔽物のない土地での戦いなら、組織的な戦闘を得意とするザラムに分がある。 《勝てない戦いではない――》ドンは思った。 そのとき、ドンのきた方向から白いMS――ガンダムがあらわれた。 * * * フリットは、グルーデックの運転する四輪車で牧草地についた。ザラム・エウバ両軍の決戦は、すでにはじまっていた。 ガンダムを見つけた。丘に囲まれた盆地のような最前線に行こうとしている。フリットは、拡声器で呼びかけた。 「デシル! ガンダムはおもちゃじゃないんだ! はやく降りてくれ!」 無視するように、ガンダムは走り出した。白い機体が、みどりの大地を駆ける。背中のスラスターを噴かせて、ぐんぐんと加速した。 最高速度だ。推進剤を浪費するが、もっともはやい走り方だった。 しかし、いかにガンダムでも、この速度では曲がれない。MSの群れにぶつかるか、転んでしまうだろう。 ガンダムの前に、武器を交える2体のジラとゼノがせまった。 「あぶない!」フリットは叫んだ。 が、デシルのガンダムは両腕を水平にのばすと、腕部のスラスターをふかして、円を描くように曲がった。右に左にと円を描きながら、MSとMSの間を駆け抜けていく。 フリットは、あっけにとられた。 さらに驚くことが起きた。ガンダムの伸ばした右腕が、ほかのMSと触れそうになったとき、手から光る刃があらわれた。ビームナイフだ。触れたMSの腕を斬り落としていた。 デシルのガンダムは、高速ですれちがいながら、MSの武器や腕を選択的に攻撃していたのだ。たった1機で、数十体のMSがひしめく戦場を支配していた。 さきほどまでデシルのことを心配していたフリットは、両軍のパイロットたちの心配することになった。 「あの少年はMSを操縦できるのか!?」グルーデックが驚いていった。 「わかりません。MSのパイロットになりたいとは言っていましたが……」 「とにかく、このまま帰すわけにはいかん! 身柄を拘束せねば……」 「は……、はい!」 フリットは、戦場で暴れまわるガンダムを見た。 * * * ドンは目をみはった。ガンダムの戦闘力にだ。 まわりを取り囲む、数十体のMSをものともしない。 ガンダムは戦場を駆けた。MSの速さとは思えない。かすめただけで、MSの腕や武器、頭部が斬り落とされていった。 大剣をもったMSゼノが、背後にせまるガンダムに向き直ろうとした。ガンダムは、ゼノのまわりをぐるりと回った。ゼノは、ガンダムを視界に入れることもできず、両腕を失っていた。 2体のMSジラが、ガンダムに突進した。体当たりで止めようというのだ。MS同士が衝突した。が、ガンダムはジラの頭上を、やすやすと跳び越えていた。2体のジラはぶつかって、無様にころんだ。 ドンは、戦場から離れたところに停まる車を見た。グルーデックとフリットがいた。フリットはガンダムに向かって、ハンドマイクで何かを呼びかけていた。 《あのフリットという小僧がパイロットではないのか……。乗っているのは赤い髪のガキか? あいつとは、街で知り合ったと聞いたが……。なにが起きている?》 考えている間にも、腕や武器を落とされて呆然と立ち尽くすだけのMSが増えていった。 まるで操り人形の群れに、肉食獣を入れたような光景だ。 「フッ……。フハハ……」ドンは、思わず笑った。 あんな子供が開発を手伝ったというMSに、ザラム・エウバの精鋭部隊が、なすすべもなくやられていく。何世代にもわたって続けられた戦いが、こんな形で終わろうというのか。 「……フハハハッ! フハハハハッ!」 「ド、ドン?」ザラム兵が心配そうに声をかけた。 すでにザラムのMSの3分の2、エウバのMSの3分の1が戦闘不能になっていた。ザラムの被害のほうが大きい。 《終わったか――》ドンは思った。《なぜ、負けた?》 ザラムのほうが多くやられたのは、たまたまガンダムの現れた方向に近かったからだ。敗因は、近づいたことだ。 《近づいたから負けた――か。まるで、神だな》 「フハハハッ! ハァハハハハハッ!」 「ドン……」 ドンは心から笑った。こんなに笑ったのは、十数年ぶりだった。 * * * 「ハハハッ……! どうやら俺たちは、144年にわたる戦いに、今日1日でケリをつける余裕さえないらしい!」 ドンは、外部スピーカーで呼びかけた。 「おい! エウバのラクト・エルファメル! 聞いているな!」 しばらく間があいて、ラクトが答えた。 「――なんだ!? ドン・ボヤージ! このMSは一体、何者だ!?」 「話には聞いているだろう。UEを倒した連邦の新型機だ。――それはいい。停戦だ。もう戦いになりゃしねえ」 「なっ、なに!? 停戦だとっ!?」ラクトは声をあげた。「一族の名誉をかけた戦いを、こんなことで終わらせろというのか!? ふざけるなっ!」 「……現実を見ろといっているんだ。このままじゃMSの修繕費ばかり高くついて仕方ねえ。UEにも備えにゃあならん」 すでに両軍の半数以上のMSが、戦闘能力を失っていた。 「おい! ガンダム! 戦いは終わったぞ! てめえの望みどおりだろう! さっさと退けっ!」 戦場を走り回っていたガンダムは、徐々に動きを止めた。 「よく考えろ、ラクト。今は、もう同じコロニーで争いあっている場合ではないらしい」ドンはいった。 「停戦……、停戦か。よ、よし。ならば、お前から呼びかけたのだから、実質的にはエウバの勝利でよいな? MSの損害もエウバのほうが少ないようだ」 「……フッ、いいぜ。好きにしろ。そのかわり、エウバが勝利したのは、たまたまガンダムにやられたMSの数が少なかったからだと、教科書にはしっかりと書くんだな」 「むっ……、ぐう……」ラクトはだまった。 「とりあえずの停戦だ。UEの脅威を知らんわけではあるまい」 「144年にわたる戦いに、こんな形で決着をつけることになるとは……」 「……それは、こちらも同じだ。ラクトよ、お前もわかっているだろう。この戦いを続けたところで、俺たちの誰も得をしないようにできているということを」 「ううむ……」 「それに今や多くの民の声も、両勢力への支持より、生活の改善や平和な暮らしを求めるものが多くなっている。……潮時だ、そろそろ」 ドンのMSガラは、ゆっくりと戦場の中央まで歩いた。 「不本意だが……。今は仕方あるまい」ラクトのMSエルメダも歩み寄った。 ガラの胸の装甲が開いた。コックピットから下がるロープにつかまって、ドンは地上に降りた。 「なんだ! まだ何かあるのか!?」ラクトがいった。 ドンは草原の上で、右手をさし出した。 「兵にもわかりやすいよう、これくらいの演出にはつきあえ」 エルメダの胸がひらいた。ロープにつかまって、ラクトが降りてきた。 「貴様と、こんなことをする日が来ようとはな……。夢にも思わなかったぞ」ドンに近づいた。 「そりゃあ、お互いさまだ」 「とりあえず、だな」ラクトは、右手を伸ばした。 「ああ、とりあえずだ」 ドンとラクトは手をむすんだ。 * * * フリットは車のうえから拡声器でガンダムに呼びかけた。 「デシル! 戦いは終わったぞ! はやく出てきてくれ! 素直に言うことを聞けば、罰したりはしない!」 ガンダムが、ゆっくりとひざをついた。 「デシルを確保するぞ!」 グルーデックがいった。ハンドルをさばきつつ、片手には銃をもっている。 「僕が説得します! 手荒なことは……」 「わかっている!」 フリットたちの車が、ガンダムまで数十メートルに近づいた。 ガンダムの胸の装甲がひらき、落ちるようにデシルが現れた。片手にはキックスケーターをつかんでいる。着地と同時に飛び乗った。 デシルは、スケーターのエンジンをふかすと、フリットに背を向けて草原を走った。 「デシル! 待つんだっ!」フリットは叫んだ。 「フリットー! また、あそぼーっ!」 デシルは、振り向いていった。その姿は、どんどん小さくなっていった。 * * * 「ボヤージさん!」 フリットは、ドンとラクトのもとに走りよった。 「おう。きたか、小僧」ドンはいった。「お前の望みどおりになったぞ。今しがた、エウバと停戦することを決めた」 「えっ!? 本当に!?」 「ウソを言ってどうする! ――しかし、あのガンダムは、お前が乗っていたのではなかったのだな」ドンは、ガンダムを見た。 「す、すこし、事情があって……」 「きみがフリットくんか」ラクトがいった。「コロニーをUEから守ってくれたというな。それについては、感謝せねばならんな……」右手をさし出した。 「いえ……」フリットはラクトと握手をした。 「それにしても驚いたぞ。あのMSは、とんでもない強さだな……」 「すいません……。こんなことになるなんて……」 「過ぎたことを気に病むな。我らとしても、UEには備えねばならんと思っていたところだ。これも、時の流れというやつか……」ラクトは、深く息を吐き出した。 「ドン・ボヤージ!」グルーデックが近づいていった。「エウバと和解してくれたのか!」 「ふん! 停戦だ、停戦! これ以上、無駄な戦いで消耗しても、UEと連邦を利するだけだからな」ドンは両腕を組んでいった。 「グルーデックさん!」フリットはいった。 「ああっ……!」 グルーデックは、うなずいた。その表情は、希望を見いだしたように明るかった。フリットが、はじめて見る顔だった。 ――ビィーン! ビィーン! ビィーン! 突然、けたたましい機械音が近くで鳴った。 |